バックアップと復旧設計の実務|RPO/RTOと誤操作復旧で運用事故を最小化する

「データが消えた」ときに、復旧できるかどうかで業務システムの信頼性は決まります。
多くの事故は、サーバ障害よりも誤操作(誤削除・誤更新)です。担当者が良かれと思って直した結果、履歴が壊れて戻せない――これが最も痛いパターンです。
本記事では、RPO/RTOの考え方から、誤操作復旧を前提にしたデータ設計(ソフトデリート、履歴、監査ログ)まで、実務で壊れない復旧設計を整理します。

この記事で扱う論点
・RPO(どこまで失って良いか)とRTO(どれだけ早く戻すか)
・誤操作復旧(誤削除、誤更新、差し替え)
・ソフトデリート、履歴、監査ログの整合
・運用手順(誰が、何を、どの順番で復旧するか)

1. まず決める:RPO/RTOは“業務の痛み”で決める

RPO/RTOはIT用語として決めると形骸化します。業務側の痛みで決める方が正確です。

例えば、納品予約や入出庫のように現場が止まる領域(物流向け)はRTOが短くなりがちです。
一方、問い合わせ管理でも「今日の対応」が止まると損失が出るので、最低限“当日復旧”を目標にしておくと現実的です。

2. 誤操作復旧が本番:ソフトデリートと履歴が要る

誤削除を“バックアップから戻す”運用は、現場ではほぼ回りません。復旧範囲が大きく、他の更新が巻き戻るからです。
そこで、実務では次の型が基本です。

誤操作復旧の基本セット
・削除は物理削除ではなく「ソフトデリート(削除フラグ/非表示)」
・復元(復活)操作を管理画面に用意する
・誤更新に備えて、重要項目は変更履歴(前→後)を残す
・誰が何をしたかは監査ログで追えるようにする

この考え方は、権限設計(削除権限を分離する)と監査ログ(追記ログで説明責任に耐える)の両方と整合させると、運用事故が減ります。

3. “復旧しやすいデータ”にする:IDと参照整合を壊さない

復旧で詰まるのは、参照関係が壊れているときです。
例えば、問い合わせ本体を復元できても、添付ファイルや担当割当が参照切れになっていると、現場は復旧した扱いにできません。

問い合わせ管理なら、保存ビューやフィルタ(運用向けフィルタ設計)と同様に「復旧ビュー」を持つと、運用の属人化が減ります。

4. バックアップの粒度:フル/差分だけでなく“論理バックアップ”も用意する

インフラ側のバックアップ(フル/差分)だけだと、誤更新の一点復旧が難しいことがあります。
そこで、業務システム側で「論理バックアップ」(CSV出力やスナップショット)を用意すると復旧が早くなります。

マスタ運用が絡む場合は、マスタ運用の責任分界とセットで「どれをバックアップ対象にするか」を決めると、無駄が減ります。

5. 復旧手順:誰が判断して、誰が実行するかを決める

復旧は、技術よりも意思決定が詰まりがちです。
「巻き戻す?」「どの時点?」「顧客に連絡は?」が決まらないと復旧できません。最低限、次を決めてください。

ここはエスカレーション設計(SLA・期限・通知)と同じで、事前に決めていないと事故時に止まります。

業種別に“復旧設計が刺さる”場面(例)

自動車販売・整備・タイヤショップ

予約枠や入庫予定を誤って消すと、当日現場が崩れます。工程が長い業務は、履歴と復元が必須です。業務像は 自動車販売・整備・タイヤショップ向け を前提に、ソフトデリート+復元ビューを先に用意すると運用が安定します。

ホテル(団体・宴会)

仮押さえや日程調整の履歴が重要で、巻き戻しより“差分復旧”が求められます。問い合わせ/見積の運用像は ホテル向け を前提にすると、履歴の粒度を決めやすいです。

まとめ

バックアップは「ある」だけでは足りず、「誤操作から早く戻せる」形にして初めて実務で効きます。
RPO/RTOを業務の痛みで決め、削除はソフトデリート、重要更新は履歴、操作は監査ログで追えるようにする。復旧ビューと復旧手順まで決めておけば、事故は小さく収束します。インテンスでも、運用開始後の手戻りを減らすために、この設計を最初から組み込む方が結果的に安くなります。

本記事は、Webシステム開発・スマホ自動変換「movo」・業務システム構築・フォームUX改善・EC支援を提供する 株式会社インテンスが、実際の開発プロジェクトで蓄積した知見をもとにまとめています。 株式会社インテンス(公式サイト)